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2019年12月04日

歩行という複雑系

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こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。
伊丹市内を中心に尼崎市・豊中市をはじめとする阪神・北摂地区の患者様にお身体の悩みを「根本改善」する「根本治療」を提供しております。

今月のオススメ本1冊目は
『四肢奮迅』乙武洋匡(講談社)

著者「乙武くん」は「先天性四肢欠損」という宿痾を生きる人である。
1998年『五体不満足』の出版を期に一躍クローズアップされ、カバー写真の電動車椅子に乗る若者は世間に衝撃を与えた。メディアを通じて伝えられる四肢の無い彼が、電動車椅子を乗り回し、短い手足を駆使して食事をしたり、字を書く様子は、多くの人々に驚愕と感動を与えた。

2016年3月、降って湧いたように突然女性スキャンダルが「乙武くん」に振りかかる。
それをきっかけにメディア出演が無くなり、人生が一変する。
24時間、自宅から一歩も出ない引きこもり生活から、一年間に渡る海外生活。
そんな鬱蒼とした日々を送るうち、ある出会いが大きな転機となる。

それは、『乙武洋匡サイボーグ化計画』

かつて対談を通して知りあったロボット義足の研究者遠藤謙氏が推し進める『乙武洋匡サイボーグ化計画』は、“乙武くん”がロボット義足を装着しての歩行を実現を目指すプロジェクトで、文部科学省の所轄機構の研究プログラムから助成を受け行われるもの。

本書は、“乙武くん”と遠藤氏を中心に計5名からなる義足プロジェクトが、“乙武くん”が抱える「四肢欠損」という事情がもたらす多くの難題を、『四肢奮迅』の頑張りで解決していく様を描いたものである。

この中で当院が特に興味深く読んだのは、“乙武くん”が抱える「四肢欠損」という特殊性が義足歩行に及ぼす影響に触れた箇所である。

“乙武くん”は歩くことに関して、自身の身体は「三重苦」だという。
一つめは、両膝がないこと。そのため難易度があがる。
二つめは、両手がないこと。歩行のバランスが取りにくく、転倒したら顔から地面に激突してしまう。
三つめは、歩いた経験がないということ。事故や病気で後天的に足を失った人とは違って、思い出すべき歩行の記憶がないということ。

特に三つめが重要で、歩いた経験がないゆえに、「頭で歩く」ことになる。“乙武くん”の脳内では、「左足を前に出す→左足を接地させる→左足に体重をかける→右足を前に出す→……」というサイクルで指令を出し、肉体はその指令にしたがい動いていく。そのため、一つ一つの動作がどうしてもスローテンポになってしまう。つまり「静的歩行」になってしまい、動作のたびに筋肉に負担がかかり、体力消耗が激しくなる。望ましいのは、こうした一連の動作がアップテンポで流れるように行われる「動的歩行」である。この歩き方なら筋力をあまり使わずに済む。長距離を歩くには、どうしてもこの「動的歩行」をマスターする必要がある。

健常者なら誰もが行っている「動的歩行」だが、これをスムーズに行うためには体幹と両手、両膝の極めてテクニカルでセンシティブな連動が必要で、脳→運動神経→筋肉相互の微妙な連携があってはじめて可能となる。
多くの義足歩行者は事故や病気で後天的に足を失った人であり、歩く能力を再獲得するためにリハビリを行うため、この「動的歩行」の習得は比較的容易であるが、「三重苦の乙武くん」はその限りではない。

ここに、 科学技術の発達をもってしてもその再現性は未だ道半ばである歩行という難易度の高い営為をこともなく行える複雑系としての人体の偉大さを思うのである。

しかし、その偉大さは諸刃の剣である。

少しの部分的狂いが全体を侵す。全体の狂いが部分的異常として顕在化する。

東洋医学の鍼灸の根本理念は部分から全体を、全体から部分を照らし、「根本改善」に導くことにある。

人体の偉大さに光をあてることこそが「根本治療」の奥義である。


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