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2019年11月20日

実存が「呼応」から「統一」に向かう時

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こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。市内を中心に尼崎市・豊中市の患者様の悩みを「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を行なっています。

燈火親しむ秋。

令和新時代の文学界を牽引する女流作家といえば、川上未映子・村田沙耶香・辻村深月の名が挙がる。
アラフォー世代で、これから脂の乗り切った書き盛りを迎える3人である。


この3人作風こそ違うが、毎作、女流らしい目配りで人間の実存に関わる今日的テーマを取り上げる。

今回ご紹介する『生命式』村田沙耶香(河出書房新社)も案に違わず、村田ワールド全開の短篇が12本収められている。

いずれも傑作であるが、掉尾を飾る「孵化」が一番面白かった!

「孵化」の主人公は、結婚が決まり披露宴を間近に控えた若い女性「タカハシハルカ」。

本来幸せ一杯、喜び勇んでその日を迎えるはずが、彼女にはそれが出来ない大きな理由があるのだった。

「自分には性格がない」という独白から物語が動き出す。

彼女は、これまでの人生で5つの人格キャラを使い分けて生きてきたのだ。
小学・中学校時代は、「委員長#1」と呼ばれるしっかり者の優等生として。
高校時代は、「天然でちょっとばか」な女の子「アホカ#2」として。
大学時代サークル内では、アイドル的存在「姫#3」として、一転バイト先では、粗雑で荒々しい男性的な 「ハルオ#4」として。
社会人になると、クールな一匹狼で、神秘的なオーラを放つ「ミステリアスタカハシ#5」として。
婚約者のマサシは高校時代の友人の紹介で付き合い始めたため「アホカ#2」として接している。

その「場」の雰囲気を察し壊さぬよう、コミュニティ毎に「呼応」した喋り方や立ち居振る舞い、言葉使い、服装、嗜好に変え、それぞれの「キャラ」を演じ分け、うまく立ち回ってきた人生に大きな試練が立ちはだかる。

それは、披露宴では#1〜5各時代の友人・知人が一堂に会すること。

その時自分は齟齬をきたさぬよう、一体、どう人格キャラの「統一」をはかり、振る舞えばいいのか。

「アホカ#2」として認識しているマサシにはどう接し、説明すべきか。

思い悩む彼女に全てを知る友人が授けたある「秘策」が、思わぬ結末をもたらすことに……。

イジメやハラスメントがはびこり、ますます同調圧力が強まる現代社会の中で、誰もが「呼応」する自分を持っている。仮面を被って生きている。

本作は、実存する自分とネット空間やSNS上でなりたい「キャラ」を都合よく使い分け、一見快適に生きているように見える現代人の愚かさの本質を描いて秀逸。生きづらさを抱える全ての人に読まれるべき「怪作」である。

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