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2020年12月21日

≪自己有用感≫を得る

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こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。伊丹市内を中心に、尼崎市・豊中市をはじめとする阪神・北摂地区の患者様のお身体の悩みを「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を提供しております。


 

今回紹介したい本は、『子どもが作る弁当の日』城戸久枝(文藝春秋)

 

「弁当の日」は、子供が親の力を借りないで、献立、買い出し、調理、片付け全部を自分で行い、自分の弁当を作って学校に持っていくというシンプルな取り組み。

 

2001年4月、四国の香川県にある綾川町立滝宮小学校で当時の竹下和男校長の提唱で始まり、これまでに、全国47都道府県、2300校以上の学校で実践されている。

2019年の文科省による学校基本調査によると、全国の小中学校数は29、960校。

全国の十分の1の小中学校で、「弁当の日」が実践されているということだ。

 

竹下和男がそもそも「弁当の日」」を思いついたのは、給食を食べている子供達の顔が楽しそうにしていないことに衝撃を受けたことがきっかけであった。

 

“子供達を変えるには、どうすればいいか。

作ってもらった給食を食べるのではなく、作る側の体験を子供達にさせてみてはどうか。

食材から料理になっていくまでの過程に、子供達自身を関わらせていくことによって、彼らが食べる意味に気付くのではないか。

献立、買い出し、調理、片付けまで子供自身がすべてやる。

自分達が料理を作ることにより、「いただきます」と「ごちそうさま」の向こう側ものに感謝の気持ちが芽生えるはずだ”

こんな自問自答の中で生まれたのが「弁当の日」である。

 

実際、「弁当の日」が始まってまず子供達に起こった変化は、給食の食べ残し(食品ロス)が極端に減ったこと。

「弁当の日」を経験し、自分が料理を作ることで、作ってもらう有り難さを知る。

料理の向こう側には、それを作ってくれた人がいることを強く意識するようになり、その結果、好き嫌いを言っていた子供達の意識が大きく変化した。

「ありがとう」という気持ちが芽生えるに従って自然と残食が少なくなったという。

 

本書は、このように「弁当の日」を経験して、変貌、成長していく子供達の姿と、それを見守り、この取り組みのために尽力する竹下和男を中心とした人的ネットワークを詳述する。

 

そのうちの一人、福岡県行橋市の助産師・内田美智子が着目した子供達の「食育と性」の関係は興味深い。

内田はこれまでに助産師として3000人以上の出産に関与する中で、思春期の望まぬ妊娠、中絶、出産を余儀なくされた性につまづく少女達を多く見てきた。

性につまずいた少女達に共通するのは、「安心してお腹一杯ごはんを食べる居場所」がないことだと、内田は喝破する。

食べることは生きることにつながるが、きちんとごはんを食べていない子供は、性に対しても、生きることに対してもなおざりな感情を持つようになる。

つまり、「自尊感情」が欠如しているのである。

 

内田にはもう一つわかったことがあったという。

それは、性行動の早い子供達は、家庭の中でほとんど会話が無かったこと。

親子の会話が少ない子ほど、異性と出会って性を持つまでの時間が短く、かつ、初めての性体験の年齢が低い。

 

家庭の中の会話は、子供の中に価値観が入る場だが、それがないと自分が大事にされたり、自分を大事にしようとする「自尊心」や、他人を思いやり、尽くそうとする「利他」の心を育むことができない。

 

その家庭の会話の無い子が早く性行動を起こし、つまずくのだ。

 

思春期になるとただでさえ、家庭内の会話は少なくなるが、では、どうすれば、家庭内の会話を増やすことができるのか、この子たちを救うためには何ができるのか……。

 

そんな思いを抱えていた時、内田は「弁当の日」に出会い、心を大きく動かされた。

 

「弁当の日」をやると、弁当に入れる料理の作り方を子が母親に聞かねばならず、必然的に親子の会話が増える。そうして自分で作った弁当を満面の笑みで自慢げに差し出す子供達の写真を見て衝撃を受け、内田は「弁当の日」の応援を決めた。

 

写真の中の「自尊心」に満ちた子供達の表情が、「弁当の日」には“性教育”はもとより、“生教育”の力があるとの確信を内田の胸に抱かせたのである。

 

次に紹介したいのは、大分県佐伯市で始められた『巣立つ君たちへの自炊塾』。

これは、小中学生として「弁当の日」を体験した高校生のうち、進学や就職のために地元を巣立つ者を対象に、巣立つ前日か当日の朝、みそ汁一杯、家族のために作って、「これまでありがとう」の感謝の気持ちを伝えることで家族を安心させよう、とのコンセプトで始められたもので、地元のプロの料理人を講師に招いて行われる。

 

本書には、この塾で学んだ高校生が旅立ちの朝、家族のためにみそ汁を作り、別れの膳を囲む様子が感動的に描かれている。

 

生きる上で必須となる家事能力だが、とりわけ自炊力がものを言う

自炊力は、気配り、洞察力、コミュニケーション能力を育む。

また、自分のことは自分で始末をつける「自立心」と、自分の料理を家族や友人、恋人ために作ろうとする「利他心」を養う。

それらはやがて、自分に向けられた笑顔、感謝、賞賛となって舞い戻る。

 

幸福とは、他人の喜びを自分の喜びに変えることから生まれる≪自己有用感≫を持つこと。

 

「弁当の日」は、子供達に食べることから自分の命を見直し、自分を生かす森羅万象に感謝の念を抱いて生きることを身につけさせる「生教育」の場であると共に、“自分が他人にして欲しいこと”を“自分が他人にしてやれる“人間に成長することで生まれる≪自己有用感≫を充足させる機会である。

 

実は、本書の中で最も当院の腹に落ちたのがこの≪自己有用感≫という言葉!

 

当院もこれまで「弁当の日」同様、患者様の幸せを自らの幸せとすることで得られる≪自己有用感≫の獲得をひたすら目指して施術にあたってきたが、本書を読み終え、その想いはより強まり、揺るぎないものとなった。

 

これからも当院は引き続き、≪自己有用感≫を胸に、患者様の悩みを根本改善に導く能力向上のための精進、研鑽を積み重ねる所存である。

 

皆様の変わらぬご指導、ご鞭撻、ご愛顧をお願いして本稿を置きたいと思う。

 

 

 

 

 

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