2020年06月20日
生きたように死ぬ
ブログ
こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。伊丹市内を中心に尼崎市・豊中市をはじめとする阪神・北摂地区の患者様のお身体の悩みを「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を提供しております。
今回は実力派ノンフィクションライター・佐々涼子の第3作『エンド・オブ・ライフ』をお薦めしたい。
著者はこれまで、デビュー作『エンジェル・フライト国際霊柩送還士」で、海外で客死した人々を運ぶ仕事を描き、第2作『紙つなげ!彼らが本の紙を作っている日本製紙石巻工場 』では、東日本大震災で津波に襲われつつも、自らの責務の完遂に情熱を燃やす人々を描いた。
そして第三作目の本作では、終末期在宅医療・看護・介護の現場を描く。
この三作に通底するテーマはズバリ、人間の「死」だ。
本作は、三つの部分で構成される。
まず第一は、2013年、京都・渡辺西賀茂診療所のスタッフの往診に同行取材し、そこで繰り広げられる命の看取りのドラマ、第二に、その時知り合った訪問看護師がその5年後の2018年、末期癌に侵され、看護する側から看護される側に立場を変え最期を迎えるまでの一年間、そして、この二つに挟まれつつ同時進行する自分の母親の介護問題。
つまり、足掛け七年間(2013〜2019)に渡り、著者が追走した命の記録である。
第一の舞台・渡辺西賀茂診療所では、患者の希望の実現に尽力を惜しまず、時には、小旅行にもスタッフが同行する。しかも、その経費を患者側に請求することなくボランティアで!
なぜこんな活動を続けているのかを問われた院長は、自分の役割をこんな風に語っている。
「僕らは、患者さんが主人公の劇の観客ではなく、一緒に舞台に上がりたいんですわ。みんなでにぎやかで楽しいお芝居をするんです」
本作の中でも、食道癌を患い末期を迎えた患者とその家族に同行して「潮干狩りに行く」ケースが描かれる。
当初、この病状では無理かと思われたが、スタッフの懸命のバックアップと、なにより患者自身の意志の強さと揺るぎなさが事を完遂させた。
しかし帰宅直後、まるで家族との約束を全て果たした事に安堵したかのように静かに命を引き取る。
他にも患者宅の満開の桜の庭の下で開催されたハーブコンサートや、ディズニーランドへの家族旅行に同行、患者の臨終の際も立ち会った全員が拍手で送り出す模様など感動的な場面がいくつもある。
そんなホスピタリティの高い現場で長年経験を積んだ本作の主人公・森山文則が、膵臓癌を原発とする末期の肺癌に侵されたとの報が著者の元に届いたことから本作の第二幕が上がる。
森山の看護する側から看護される側へ、立場の転換を余儀なくされた逡巡と、これまで200人以上の人々の看取りを行なってきた者をもってしても困難を極める「死の受容」への道程が、静謐な筆致でしたためられる。
やがて行き着いた死生観を森山が淡々と語るところは、強く印象に残った。
死の不安や恐怖について、森山は次のような言葉を残している。
「死の不安や恐怖は、漠然としているからあるんだと思う。死というものが、誰よりも早く、自分の身に降りかかった時には、それが恐怖でなくなる。漠然としていた不安や恐怖の正体がはっきり見えた時、人はどこかでほっとする。これはもともと人間に仕組まれているもので、漠然とした恐怖がなくなればその分、やりたいことや好きなことをやって、自分らしく、自然と身体のプロセスに乗っていけるようになる。自然なプロセスとは、腑に落ちる感じであり、周囲があたふたしなければ自然とそうなっていく」
森山は最後、家族三人の大きな拍手の中、静かに旅立つ。
かつて自分が患者にそうやって感動的であった「命の閉じ方」を今度は家族に伝えて。
これらに並走する形で、「脊髄梗塞」という難病を患い運動機能を失った自身の母親の在宅介護の様子が描かれる。
介護を担うのは父親であり、その仕事は完璧であった。
食事や入浴、下の世話はもとより、日に三度の検温と口腔ケアは欠かさず、化粧水で保湿を行う。
摘便や、尿道及び胃ろうカテーテルの交換、痰の吸引など医療者が行う仕事も器用にこなし、看護師の新人研修の見学先として実家が選ばれるまでになる。
父親による悲壮感を持たず粛々と冷静に行う介護の様子を、筆者は肉親の情を交えず、赤裸々に生々しく描く。
このように紡ぎ出された夫婦愛の物語が、作品全体に漂う暗さに一筋の光を与える。
本作の中でいくつもの「死」が描かれるが、いずれも「生きざま」の反映である。
『生きたようにしか、最期は迎えられない』ということか!
人生は有限であり、その中で自分のやりたいことを真摯にやり抜き、家族や友人、社会に遺せるものは何か。
「来年、あなたは桜を見ることが出来ますか?」
未曾有のコロナ禍に見舞われている今こそ、こう自問して欲しい!
死は誰にも訪れるが、何人たりとも予想することは出来ないのだから。
平安時代の歌人・在原業平(ありわらのなりひら)の辞世が胸に沁みる
『つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを』
今回は実力派ノンフィクションライター・佐々涼子の第3作『エンド・オブ・ライフ』をお薦めしたい。
著者はこれまで、デビュー作『エンジェル・フライト国際霊柩送還士」で、海外で客死した人々を運ぶ仕事を描き、第2作『紙つなげ!彼らが本の紙を作っている日本製紙石巻工場 』では、東日本大震災で津波に襲われつつも、自らの責務の完遂に情熱を燃やす人々を描いた。
そして第三作目の本作では、終末期在宅医療・看護・介護の現場を描く。
この三作に通底するテーマはズバリ、人間の「死」だ。
本作は、三つの部分で構成される。
まず第一は、2013年、京都・渡辺西賀茂診療所のスタッフの往診に同行取材し、そこで繰り広げられる命の看取りのドラマ、第二に、その時知り合った訪問看護師がその5年後の2018年、末期癌に侵され、看護する側から看護される側に立場を変え最期を迎えるまでの一年間、そして、この二つに挟まれつつ同時進行する自分の母親の介護問題。
つまり、足掛け七年間(2013〜2019)に渡り、著者が追走した命の記録である。
第一の舞台・渡辺西賀茂診療所では、患者の希望の実現に尽力を惜しまず、時には、小旅行にもスタッフが同行する。しかも、その経費を患者側に請求することなくボランティアで!
なぜこんな活動を続けているのかを問われた院長は、自分の役割をこんな風に語っている。
「僕らは、患者さんが主人公の劇の観客ではなく、一緒に舞台に上がりたいんですわ。みんなでにぎやかで楽しいお芝居をするんです」
本作の中でも、食道癌を患い末期を迎えた患者とその家族に同行して「潮干狩りに行く」ケースが描かれる。
当初、この病状では無理かと思われたが、スタッフの懸命のバックアップと、なにより患者自身の意志の強さと揺るぎなさが事を完遂させた。
しかし帰宅直後、まるで家族との約束を全て果たした事に安堵したかのように静かに命を引き取る。
他にも患者宅の満開の桜の庭の下で開催されたハーブコンサートや、ディズニーランドへの家族旅行に同行、患者の臨終の際も立ち会った全員が拍手で送り出す模様など感動的な場面がいくつもある。
そんなホスピタリティの高い現場で長年経験を積んだ本作の主人公・森山文則が、膵臓癌を原発とする末期の肺癌に侵されたとの報が著者の元に届いたことから本作の第二幕が上がる。
森山の看護する側から看護される側へ、立場の転換を余儀なくされた逡巡と、これまで200人以上の人々の看取りを行なってきた者をもってしても困難を極める「死の受容」への道程が、静謐な筆致でしたためられる。
やがて行き着いた死生観を森山が淡々と語るところは、強く印象に残った。
死の不安や恐怖について、森山は次のような言葉を残している。
「死の不安や恐怖は、漠然としているからあるんだと思う。死というものが、誰よりも早く、自分の身に降りかかった時には、それが恐怖でなくなる。漠然としていた不安や恐怖の正体がはっきり見えた時、人はどこかでほっとする。これはもともと人間に仕組まれているもので、漠然とした恐怖がなくなればその分、やりたいことや好きなことをやって、自分らしく、自然と身体のプロセスに乗っていけるようになる。自然なプロセスとは、腑に落ちる感じであり、周囲があたふたしなければ自然とそうなっていく」
森山は最後、家族三人の大きな拍手の中、静かに旅立つ。
かつて自分が患者にそうやって感動的であった「命の閉じ方」を今度は家族に伝えて。
これらに並走する形で、「脊髄梗塞」という難病を患い運動機能を失った自身の母親の在宅介護の様子が描かれる。
介護を担うのは父親であり、その仕事は完璧であった。
食事や入浴、下の世話はもとより、日に三度の検温と口腔ケアは欠かさず、化粧水で保湿を行う。
摘便や、尿道及び胃ろうカテーテルの交換、痰の吸引など医療者が行う仕事も器用にこなし、看護師の新人研修の見学先として実家が選ばれるまでになる。
父親による悲壮感を持たず粛々と冷静に行う介護の様子を、筆者は肉親の情を交えず、赤裸々に生々しく描く。
このように紡ぎ出された夫婦愛の物語が、作品全体に漂う暗さに一筋の光を与える。
本作の中でいくつもの「死」が描かれるが、いずれも「生きざま」の反映である。
『生きたようにしか、最期は迎えられない』ということか!
人生は有限であり、その中で自分のやりたいことを真摯にやり抜き、家族や友人、社会に遺せるものは何か。
「来年、あなたは桜を見ることが出来ますか?」
未曾有のコロナ禍に見舞われている今こそ、こう自問して欲しい!
死は誰にも訪れるが、何人たりとも予想することは出来ないのだから。
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『つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを』
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