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2020年03月07日

「価値の遠近法」という教養

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こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。伊丹市内を中心に尼崎市・豊中市をはじめとする阪神・北摂地区の患者様のお身体の悩みを「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を提供しております。

今回取り上げる本は、『式辞集ー岐路の前にいる君たちに』鷲田清一(朝日出版社)

年度末の変わり目というのは、惜別と邂逅に心の揺れる季節である。

本院にとり本書との邂逅は、心の揺れをいやが上にも増幅させる何よりの僥倖であった。

医療や介護、教育の現場などに哲学の思考をつなぐ臨床哲学を提唱・探求する哲学者・鷲田清一は大阪大学総長(2007〜2011)、京都市立芸術大学理事長学長(2015〜2019)を歴任した。

本書は計8年間の在任中、卒業式・入学式で学生大学院生に向け述べられた式辞を集めたものである。

式辞の中で、自らの学問や仕事の専門性に磨きをかけ鍛え上げたプロフェッショナルになることの大事を説いた上で、「教養」を身につけることの大切さが繰り返し強調される。

「教養」とは、自分が何を知っていて何を知らないか、自分に何ができて何ができないか、それを見通せていることに他ならない。

自分にしか出来ないことを知っていることというのは、裏返して言えば、自分には出来ないことをも明確に知っていることであり、自分には出来ないことを知っている別の人と協働しないことには、自分にしか出来ないことすらも実現出来ないということを知っていることである。

現実の世界で事を成すには、一つの専門性は、他の専門性と編まれる必要がある。

別の領域の専門家と同じ一つの問題に取り組む共同作業ができるためには、自分の専門的知見について全くの素人である別の専門家に関心を持ってもらい、正しい理解を得る説明能力が必要になる。

それは専門家として、人々にそれをしてみたい気にさせる技、つまり、「しなければならないこと」を「したいこと」へと変換させる技法のことである。

プロフェッショナルがその専門性を十分に活かし全うするためには、非専門家をはじめとして、異なる文化的素養を持つ人たちの関心を良く理解し、また深く刺激する対話が可能な「教養人」であらねばならない。

そこで、「隙間を大切にしよう」と提唱する。

隙間とは、誰にも見えているはずなのに、誰も見ていない、そういう領域のこと。

例えば、新しい課題が立ち上がった時、お互いに仕事を押し付け合うようでは、その課題は解決できない。

誰の仕事でもないけれど、誰かがしなければならない事柄だからこそ、とりあえず自分がやっておく、そんなさりげなさを身につけるためには、日頃より、自分の専門性を相対化する眼、つまり、世界を[複眼]で見ているかにかかっている。

[複眼]とは、専門的知見とは異なるもう一つの眼、一つの問題に対して様々な方向から照射し、問題を立体的に浮き彫りにするのに必要ないくつもの思考の補助線を確立出来る「教養」の眼のことで、そのような複眼の中でこそ世界がある奥行きをもって浮かび上がってくる。

この奥行きを「価値の遠近法」という概念で敷衍する。

「価値の遠近法」とは、
・無くてはならないもの、つまり絶対に見失ってはならないもの
・あっても良いけど無くても良いもの
・端的に無くてよいもの
・絶対にあってはならないこと

この四つを、どんな状況にあってもその都度区分けし、見分ける眼力を持つことを「教養」という。

本院に当てはめて考えると、述べられている一々に深く首肯する。

東西医学結合。

つまり、目前にある患者に対し、西洋医学と東洋医学が手を携えて、協力して治療に当たること。

その結果、互いの利点と欠点を相補う相乗効果を手に入れ、より大きな成果を生み出す。

そこには、立場の優劣や利害関係など存在せず、ただ患者の利益のみが優先される。

そんな崇高な理念が叫ばれ幾久しいが、未だ実現を見ず、道半ばである。

その原因を探ると、西洋医学側に東洋医学を受け入れ難い現況がある。

その理由として、東洋医学の科学的で理論的なアプローチの不足からくるエビデンス(治療法が効果あるとされる証拠・根拠)の不十分さが挙げられる。

西洋医学側からすれば、東洋医学(特に鍼灸)を行う者は、古代中国より伝来した古医学書の不確かな記述と、僅かな現代医学の知識を加味した自分流にアレンジした理論に従って業を行っている風に映り、そこで重視されるのはあくまで治療者の経験則に裏打ちされた勘や感触、手触り、手ごたえと言った身体感覚に根ざした技であり、到底医学とは承認し難いものである。

こう言った批判に東洋医学側もこれまで様々な形で応答してきたが、未だ相互理解に至っていない。

これには、東洋医学側の本書に言う「教養」の不足があったことは否めない。

確かに経験から学び、習得した自分のセンスやスタイルを大事にすることは大切だが、それに拘泥しすぎると、自分が育んできた個性らしきものに閉じこもる専門性の蛸壺化が起こり、知性の矮小化につながる。

これでは、真のプロフェッショナルを名乗る資格はない。

それを打破するには、本書の「価値の遠近法」という「教養」の出番である。

自分が鍼灸について何を知っていて、何を知らないか、鍼灸に何ができて、何ができないか、鍼灸にしか出来ないこととは何か、それを見通した上で、鍼灸を行う時、無くてはならないもの、絶対に見失ってはいけないもの、絶対にあってはならないことを見極める眼力に磨きをかける。

他分野(この場合西洋医学)の専門家の理解を得て、共同作業を働きかけるための説明能力という「教養」を駆使して、中西医結合包括的医療体制を構築する。

それはやがて、西洋医学の眼、東洋医学の眼という「医の複眼」が患者を照射することになり、中西医学結合という包括的医療体制を構築する縁(よすが)となる。

中西医学結合という「医の複眼」思考の実現と充実は、患者に多くの福音をもたらすに違いない。

当院は、そのための教養の涵養に邁進する。

勉強は生涯続く、終わりなき道である。

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