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2020年02月23日

家族の原風景

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こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。伊丹市内を中心に尼崎市・豊中市をはじめとする阪神・北摂地区の患者様のお身体の悩みを「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を提供しております。

今回ご紹介する本は、『息子たちよ』北上次郎(早川書房)。

著者は、本を読んだ時に湧き上がった感想を書き留める「書評エッセイ」の名手。

本書は、人生の様々な局面を自分のケースをもとに語りながら、同時に関係のある本をガイドする[異風]ブックガイド・エッセイ集である。

本書が[異風]という所以は、これまでの著作が、男と女、その恋愛模様を中心にしていたのに比べ、今回は「親子」、「家族」を中心テーマに据えている点である。

本が好きでなくては書けようはずもないが、本が好きなだけでは書ける訳もない。

人生への悔恨と反省と不安とを噛み締める想像力と、ほんの一滴ばかりの自信と矜恃が無ければ、このテーマを語ることができないだろうし、また本を丁寧に読みほぐす力が無ければテーマに即した本を臨機応変に繰り出すことも出来ないだろう。

そして、本に描かれた「家族・親子」と著者の人生の中のそれとが互いに呼応し合い、それぞれを際立たせていく手並みは見事というしかない。

二人の息子を持つ著者は、平日は専ら職場で過ごし、自宅には週末一日だけ帰る生活を長年続けてきた。

そのため、子供たちと過ごした時間は決して多くはない。

現在の育児休暇を推奨する時流とは逆行した父親である。

しかし、その限定された時が空疎で希薄であった訳ではない。

自宅の居間や毎年のように出かけた旅行先での団欒の思い出と重なる幼子の笑顔。

子供たちの青春の蹉跌に自らのそれを重ねて合わせて、ただ見守るしかなかった不甲斐ない自分の罪責と諦観。

成人し就職、結婚した子供たちに「今」、父親として一途に願うこと。

これらを父性のセンチメンタルな発露を極力抑制した静謐な筆致で淡々と語る。

自分と子供たちとの来し方行く末を語るうちにいつしか、今は亡き自分の両親や姉、すっかり疎遠になった兄といった「家族の原風景」に想いが及ぶ。

『両親が亡くなってもう15年になる。最近ふとしたときに父や母のことを思い出す。貧しい家だったので、どこかに旅行に出かけたこともないが、家族5人が居間で寛いでいたいた光景を思い出すのである。何を話しあっていたわけでもない。特に記憶に残る風景ではない。でも一時、そうやって間違いなく家族全員が居間にいたことを思い出すだけで温かなものがこみ上げてくる。』

家族の現実を本と共に生き、楽しみ、笑い、悲しむ感受性と文章力を持った者の説得力が我々に「気付き」を与えてくれる。

まだ子が幼くて、両親共に若く、みんなが幸せだった至福の団欒は哀しいことに一時のものなのである。

子が大きくなれば家を出て行くのは当たり前で、そうして団欒は失われていく。

家族は決して永遠ではない。

しかし、一瞬だけのものだからこそ愛おしいのである。

その普遍的な真実が「家族の原風景」の中にある。

私的な 話で恐縮だが、本日2月23日は本院の母親の誕生日である。

もちろん、老親にはできるだけ長生きしてもらいたいが、おそらく共に過ごす時間もそう多くは残されてはいまい。

それだけに、このかけがえのない存在との限りある時間に真摯に向き合い、有意義に慈しみたい。

人は互いの人生の有限性に想いを馳せるとき、労わり合える。

「今」がかけがえのない貴重で得難い時間であることに気づいた時、優しくなれる。



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