2020年01月14日
町の小さな本屋さん
ブログ

現代はインターネット社会で、様々な問題に対する回答が、検索エンジンにより素早く、効率的に得られる。
これは大変便利なものではあるが、万能ではない。
検索エンジンの限界は、大きく三つある。
一つ目は、当たり前のことだが、これで探せるものはインターネット上にあるものだけであるということ。
二つ目は、これと関連するのだが、インターネット上にあるものは、実は大したものではないということ。本当に大切なことは、ネット上に上がっていない。
そしてもう一つ。これが一番の問題だと思うのですが、検索エンジンは「自分が探したい」ものからしか、探せないことである。一つの検索から、思いも寄らなかったことが引っかかることも無論ある。しかし、それでも、自分が検索しようとしていたことに関連する何かである。
これはつまらない。
この検索エンジンの三つの限界はみな、これが鳥瞰的に作られていることに起因していると思われる。
全体構造を把握し、ネットの中から自分の探したいものを素早く見つける時には便利で効率がいいのだが、びっくりするような偶然の出会いは期待出来ない。
小さな町の本屋さんは、ウォークスルー的な検索エンジンであり、偶然全く予期せぬ出会いや発見ををもたらし、それを楽しむことによって新しい世界への扉を開けてくれる可能性もある。
しかもネットの世界に止まらず、時にはネットの外の世界にも辿りつけてしまうような身体的検索エンジンである。
人間には、そういう自分と世界をつなぐ場が必要である。
今回取り上げる、『13坪の本屋の奇跡』木村元彦(ころから)はそんな小さな本屋さんの物語。
今、日本の書店はどんどん廃業に追い詰められていて、1999年には約23000軒あったものが、2018年には約8000軒に減少(図書カード取り扱い店数)、この流れに歯止めが効かない状況である。
本書はそんな書店受難の時代にあって、世の一隅を照らす町の小さな本屋の二つのきせき(軌跡⇄奇跡)を描く。
舞台は、長堀通りのオフィス街・大阪市中央区安堂寺町に13坪の店を構える「隆祥館書店」。
創業70年を迎え、現在2代目店主二村知子の手によって運営されている。
本書は、二部構成。
第一部は、舞台となる「隆祥館書店」とそれを営む二村家の来歴をベースに、地域住民との心温まる交流エピソードが綴られる。合わせて町の小さな本屋の存立を脅やかしている出版の流通の問題についての詳述(興味ある方は文末の備考参照)と、これの改革を目指す創業者である父と現店主の娘の闘いの軌跡を描く。
第二部は、お客の要望に応えるかたちで手探りで始まり、今や隆祥館書店の代名詞とも言える奇跡のトークイベント「作家と読者のつどい」ダイジェストを四本収録する。
本院は、本書を通して描かれる「隆祥館書店」店主二村知子の地域密着を基本理念とするホスピタリティの高さに感銘を受けた。
それを一言で言えば、売り物が本だけではないということ。
例えば、近隣騒音を理由に保育園建築反対が起きているとのニュースをきっかけに「絵本と遊びで心を育むママと赤ちゃんのための集い場」という親子で参加するイベントを開催し、絵本の無料選書と読み聞かせを行う。
本は「毒にも薬にもなるもの」だからこそ、店主自らの目で慎重に吟味した、厳選されたものしか置かない。
店主の頭の中にはお客1500人分のデータがインプットされていて、その中から各人のニーズに合った本を勧める。
その結果、二村知子は「日本一 お客を知る店員」の称号を得る。
「書店は地域の文化の発信地の役割を果たすべきであり、作家と読書の仲介者」であるべきとの創業者の教えを守り、その姿勢に微塵の揺らぎがない。
やがてそれはお客との信頼と絆を構築し、「作家と読書のつどい」へと繋がる。
「作家と読者のつどい」は、本を売るための販促だけではなく地域の人々に、有名ではないけれどこんな名著があるとのアナウンスの役割や共学の姿勢を訴えるものであり、そのため世の中で起こる森羅万象に目を配り、時宜を得たテーマの書籍と著者を選定して行われる。
その特色は、店主二村知子が当該書籍を徹底的に読み込み理解した上で聞き手を務め、講演というより参加者を巻き込む座談のような形で進行し、会場が一つになり、作家との絆が醸成される。
店主の献身は、多くの作家・ジャーナリストの信頼を勝ち得ることになる。
その結果、ギャラも交通費も不要なのでトークイベントをやらせて欲しいという逆オファーが舞い込むまでのブランドに発展した。
本書で描かれる独自の存在感を発揮する「隆祥館書店」と店主二村知子の姿から、同じ個人経営者である当院は大きな刺激を受けると同時に、勇気と励ましを貰った。
これからも当院は「隆祥館書店」同様、地域密着を基本理念とした町の小さな鍼灸院としてお身体の悩みを抱える患者様を「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を献身的に提供し、世の一隅を照らす存在であり続けたいと思う!
そのために皆様の引き続きのご愛顧と、更なるご指導ご鞭撻を乞うものである。
備考
三つの問題点がある。
一つ目は、返品入帳。
書店は問屋である取次会社(取次)から書物を仕入れ、委託販売する。
委託販売であるから売れ残った本を返品すればその分が戻ってくるのであるが、「返品入帳」と言われる返品システムに大きな瑕疵がある。
取次は月末までに送付した1カ月分の書籍・雑誌の支払いを全額書店に一括請求するのに対して、書店が売れ残った本を返品しても、それが20日までに仕入れた分しか入帳(入金)されないというもの。
要は、書店の仕入れに対する締め日(30日分)と返品の締め日(20日分)が合致しない。
書店側にすれば30日分、きっちり支払いをさせられているのに、返品して戻って来るのは20日だけ。
不公平なタイムラグ(ずれ)であるその10日分の入帳(入金)が無いために、資金繰りで書店はいつも苦労する。
しかし、大型書店チェーンでは20日で締められるのではなく、30日分全てが返金されるばかりか、即請求さえ免除され、「委託」の字義通り通常納品から3カ月後に売れた分だけ請求されるパターンが存在する。
不公平なこの扱いに「隆祥館書店」の創業者が奮い立ち、「同日入帳=送品・返品同日精算」の実現のための長い闘争を繰り広げ、僅かな譲歩を勝ち取る(現在切り締め日20→25日、5日短縮)。
二つ目は、ランク配本。
店の規模(坪数)に応じて取次と出版社(版元)が協議して機械的に配本数が決められていく制度。
努力して販売実績を積んでもただ坪数が小さいと言うだけで欲しい本が卸してもらえないというアンフェアなシステムである。
三つ目は、見計らい配本。
書店の注文していない本を「見本」の名義のもと勝手に見計らって送ってくるシステム。
一方的に送られてくる本の中には、その書店に相応わしくない商品や、出て数年が経過して賞味期限が切れているものも含まれている。
現在書店の棚にヘイト(差別を扇動する)本が席巻している一因になっている。
以上、規模の大きい書店優遇の販売システムが町の小さな本屋の経営を逼迫させる要因となっているが、実質寡占状態にある取次大手二社(日販、トーハン)にこれを改める意向はない。
それ故に本書が、直取引代行(取次を通さず直接書店に書籍を郵送する方法で卸す独自のシステム)のトランスビュー の取り扱い版元「ころから」から出版されることの意義は大きい。
そこに著者・木村元彦の反骨と矜持を見る想いがするのである。
出版不況とそれに伴う本屋減少の主な理由を、娯楽の多様化によるそもそもの活字離れと書籍購入資金の捻出に苦慮する貧困問題、雑誌のコンビニ購入、amazon や楽天などネット通販の台頭と電子書籍の普及など数々ある。
しかし、それにも増して出版界に巣食う本屋を苦しめる流通の構造的瑕疵がその大きな理由と知り、蒙を啓(ひら)かれた。
個人的なことを言えば、本の購入はジュンク堂書店や紀伊國屋書店を専ら利用し、町の小さな本屋に足を運ぶことは皆無であるが、これからは今一度、不遇の時代に頑張る志ある本屋に目を向けエールを送りたいと思う。
その手始めに隆祥館書店を目指したいと思う!
是非、「作家と読者のつどい」にも参加したいと思う!
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