2019年12月20日
絶対善意という刃
ブログ
こんにちは、兵庫県伊丹市の西田鍼灸療院です。伊丹市内を中心に尼崎市・豊中市をはじめとする阪神・北摂地区の患者様のお身体の悩みを「根本改善」に導く「根本治療」の鍼灸を提供しております。
一読驚嘆。
今、読後の深い余韻に浸っている。
勿論、こんな体験はそう度々あるものではないが、時折遭遇するこんな一冊が人生に彩りを与えてくれる。
そして、「これだから、読書はやめられない!」との感慨を一層深めてくれる。
その一冊は、『流浪の月』凪良さら(東京創元社)
男性同士の恋愛を描くボーイズラブ(BL)小説作家として12年のキャリアを持つ凪良ゆうが、一般文芸作品を上梓した。
読者は、BL作家として培った手練手管をもって社会的マイノリティの繊細な心理を重層的に語る凪良マジックにいつしか魅入られていく。
物語は、女児監禁事件の犯人の男(当時19歳)と被害者の女(同じく9歳)が、事後15年経って再会する事から大きく動き出す。
それまで男は小児性愛嗜好を持つ変質者、女はそんな変質者に性的に弄ばれた被害者という十字架を背負い、疎外されて生きてきた。
しかし、女が自らのライフヒストリーを中心に据え語る事件の実際と、世間の常識が生み出す想像との間には大きな乖離が存在し、それが大きな悲劇を次々と生み出していく。
作中の「事実と真実は違う」という女の心の声に触れ、胸が熱くなる。
事実と真実との間の距離を言葉で埋めようとする二人に、誰も耳を傾けてくれないばかりか、更なる偏見と中傷、それを取り繕う善意という刃が追い打ちをかける。
為す術も無く追い詰められていく二人に、読者は息苦しさにもどかしさ、掻き毟られるような苛立ちと焦燥を感じ、それは沸点に達する。
やがて、そんな胸を締め付けられる想いは、限りない絶望、虚無、無力感に収斂されていく………。
いくら条理を尽くしても埋まらない社会や他者との溝が起因となって、生きにくさを醸成していく時代の要請が本作を生み出した。
とにかく、虚心坦懐に手にとって、只々、物語に身を任せ、一気呵成に読み切ってもらいたい。
魂の核を根こそぎ揺さ振る極上の読書体験を保証する。
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